永遠のライバル

蝸牛

カタツムリ

VS 蛞蝓

ナメクジ

概要

カタツムリという言い方は日常語であって、生物学的な分類単位ではないため厳密な定義はない。地上を生活の場とする巻き貝類を陸貝(=陸に棲む貝類)という。このうち殻をもたないものをおおざっぱにナメクジという。これに対して殻を持つもの全てをカタツムリと呼んでも間違いではないが、ヤマタニシやキセルガイは普通にはカタツムリとは呼ばない。

一般には蓋がなく触覚の先に目を持つ有肺類の陸貝を言い、なかでも球型〜まんじゅう型の殻を持つものを指すことが多い。日本産ではオナジマイマイ科やニッポンマイマイ科の種類が代表的なものである。乾燥に弱く、移動能力が小さく、また、長距離の移動や山脈や水域を越えるのも難しいため、地域ごとに種分化が起こりやすい。種類は北より南の地方で多い傾向があるのは他の動物群と同様である。日本列島全体にわたるような広い分布域をもっているのは畑地の害虫であるウスカワマイマイなどごく僅かで、それ以外のカタツムリは地域ごとに異なる種が棲んでおり、関東と関西では多くの種類が入れ替わっている。また島などでは特に種分化が起こりやすく、南西諸島や小笠原諸島では島ごとに固有種が進化していることも多い。このような種分化は地球規模ではさらに顕著で、大陸間では科や属のレベルで大きく異なるのが普通である。

別称:デンデンムシ・マイマイ・蝸牛(かぎゅう)など。 英語のsnailや独語のSchneckeはカタツムリばかりでなく巻貝全体を指す場合もあるため、特に陸貝を言う場合はland snail、Landschneckeなどということがある。

形態

貝類のうち陸に棲むものは巻貝のみであるが、それらは多様な環境に適応して形態や生態が分化しており、中にはナメクジのように貝殻が退化したものや、キセルガイ科やオカチョウジガイ科のような細長い殻をもつものもある。大きさは日本産では1mm前後のものから数cm、アフリカなどには殻が20cm以上、体が40cm近くなる種もある。また、ヤマキサゴ科やヤマタニシ科のように殻にフタをもつものもあり、これらは一般にカタツムリと呼ばれる有肺類とは起源が異なるものである。



殻の巻き方

カタツムリには右巻き(右旋:dextral)と左巻き(左旋:sinistral)があり、上から見て、渦の中心からどちら回りに殻が成長するかで決められる。実際に区別をするには、殻頂を上にして殻の口を自分の方に向けたとき、殻の口が右にあれば右巻き、左にあれば左巻きとするのが簡単である。日本産のものでは種ごとに巻きの方向が遺伝的に決まっており、大部分の種は右巻きであるが、ヒダリマキマイマイなど少数の左巻き種がおり、キセルガイ科のように科全体が左巻きのものもいる。

巻きの方向を決めるのは一つの遺伝子によるとされ、この遺伝子が欠如もしくは機能しない場合、その種本来の巻き方向とは逆に巻いた逆旋回個体となるという。実際に逆旋個体が発見されることもあるが、きわめて稀な例である。通常、逆旋個体は体の構造も逆で、交尾孔も右旋個体は右側、左旋個体は左側に開く。多くのカタツムリでは対面しながらすれ違う位置で交尾孔のある側を相互に合わせるため、巻き方が逆であると交尾が困難となり種分化がおこる場合もあると考えられている。外国にはポリネシアマイマイやマレーマイマイのように同一種内で右巻きと左巻きの両方が普通に出現する種類もある。このような両旋型の種の交尾は、他方の殻の上にもう一方の個体が乗るマウンティング形式であるため巻き方の違う個体同士でも交尾が可能であるという。

殻皮

カタツムリの表面には厚さ約0.01mm前後のキチン質で構成された殻皮と呼ばれる薄膜があり、石灰質で出来た殻の表面をスッポリと覆っている。殻皮は石灰質の殻を腐食から保護する役目や汚れが付き難くする役目、彩色することにより殻を背景にとけ込ませる保護色の役目等がある。この薄膜の殻皮によってカタツムリは殻表をいつも美しく清潔に保っている。殻皮の表面には細かい凹凸や規則正しいディンプルが無数に存在し、接着面積を少なくすることによって、殻皮に付着したゴミや汚れなどを雨で洗い落とす効果がある。殻皮の色や模様を調整することによって、鳥などの外敵から見つかり難くすることや、派手に彩ることにより婚姻色の効果を得る種類なども知られている。 殻皮という薄質の膜はカタツムリに限らず貝類の多くの種類に存在する。

殻の形

殻高が低い(=殻高より殻径の方が大きい)ものが一般的になじみがあるが、陸産貝類にはキセルガイ科(左巻き)やキセルモドキ科、オカチョウジガイ科(ともに右巻き)など細長い殻をもつものもある。カタツムリと呼ばれるものの中にも、オナジマイマイ科のトウガタホソマイマイやニッポンマイマイ科のヤマタカマイマイなども日本産の一般的な種に比べると殻高が高く、外国産のものでは更に長い殻をもつものも多く知られる。一般的に樹上や岩などの壁面を生活圏とする種類で殻高の高くなる傾向がある。しかし例外も多く殻形の適応については必ずしもよくわかっていない。

海の貝では捕食者に対抗するために棘や瘤などで殻を武装するものも多いが、日本産のカタツムリでは目立つ突起を持つ種はいない。世界的に見ても小型〜微小な種で棘をもったものが少数知られるほかは、大部分の種は滑らかもしくは多少のシワやデコボコ、もしくはある程度の螺肋(らろく)や縦肋(じゅうろく)をもつ程度である。これは活動の妨げになることと系統による制約との両方が関係していると考えられるが、明確な説はない。また海の貝によく見られる螺肋は陸の前鰓類ではしばしば見られるが、有肺類に限ってはほとんど見られない。

殻自体の突起ではないが、殻の表面の殻皮が変化して毛状になっている種も知られる。シワクチマイマイ類やビロウドマイマイ類では多くの毛状突起で殻全体が覆われており、よく似た殻表を持つ種は外国の別科のものにもいくつか見られる。またオナジマイマイ科のオオケマイマイなどの殻の周囲にはやや長い毛が見られ、ヤマタニシ科のヤマトガイ類も長い毛を持つものが多いが、これらは老成すると脱落している場合も多い。

殻口

陸貝のうち前鰓類(ぜんさいるい)のものは殻口を塞ぐ蓋をもつが、カタツムリの大部分は蓋をもたない有肺類である。そのため、敵に襲われて殻内に逃げ込んでも殻口が無防備となりやすく、一部の種では殻口を厚くしたり狭くしたりして、殻破壊の糸口や外敵の侵入などを防ぐように進化している。キセルガイ科では殻の内壁が弁状に突出したバネ式の閉弁構造を発達させており、体が殻奥に引っ込むと自動的に通路を塞ぐようになっている。またキバサナギガイやスナガイ、クチミゾガイ類なども殻口や殻内に多数の歯状突起や襞(ひだ)をもつ。海岸近くに棲むオカミミガイ科にも同様の歯状突起をもつ種が多い。外国のものではオニグチマイマイやサカダチマイマイなどが殻口内部に複雑な突起を発達させた種としてよく知られている。このような様々な殻口の構造は成貝になって初めて形成されるのが普通で、成長の最後の仕上げとして大きなエネルギーを費やすのである。このような殻口には種類ごとの特徴が出やすく、殻口が破損しているものや完全に形成されていない幼貝などでは同定が難しい場合も多い。殻口は貝自身にとっても観察者にとっても極めて重要な部分の一つなのである。

殻の模様と色

カタツムリには様々な模様のあるものも多く、特に「色帯(しきたい)」と呼ばれる、殻頂を上にしたとき水平方向に走る帯状の模様をもつものが多い。このパターンは系統とは関係なく世界中のカタツムリに多く見られる。日本産のミスジマイマイ属(Euhadra)では色帯の出る位置が決まっており、その位置は上から順に1〜4の番号が振られ、帯がない場合は0で表記される。全部の色帯が出たものは1234、まったく色帯のないものは0000となる。この色帯も遺伝子に支配されていると考えられており、同一種の同一個体群内でもいろいろなものが見られることも多い。

また色帯と垂直に交わる色の濃淡が見られる場合もあり、これは「火炎彩」や「虎斑(こはん)」あるいは「トラマイマイ模様」と呼ばれる。これはニシキマイマイやハリママイマイ、ヒタチマイマイなどでよく見られる。模様の呼称の元となったトラマイマイはシモダマイマイの斑紋の顕著な一型とされ静岡県などに分布する。

カタツムリの色は一般に茶色系統のものが多く、特に日本産のものでは色彩の乏しいものが多い。しかし熱帯にはミドリパプアのような鮮やかな黄緑色や、コダママイマイやハワイマイマイのような鮮やかな模様をもつものなど、黄色や紫やピンクなど美しい色彩をもつものも多く、これらも生息環境に適応して進化した結果であると考えられている。また伊豆諸島に分布するシモダマイマイでは殻の色彩が同地域に住むヘビの模様と呼応して変化しており、鳥などの捕食者に対するベイツ型擬態(Batesian mimics)ではないかという説もある。


巻貝一般の体の構造:a=肛門、b=殻軸筋、c=フタ、f=足、k=腎臓、m=口 腎臓などのある空所が外套腔で、カタツムリでは肺として機能する)
巻貝一般の体の構造:a=肛門、b=殻軸筋、c=フタ、f=足、k=腎臓、m=口 腎臓などのある空所が外套腔で、カタツムリでは肺として機能する)

体は軟体部とも呼ばれ、殻とは殻軸筋(かくじくきん)によって殻軸で付着している。この筋肉を収縮させることで体を殻内に引き込むことができる。殻と体は別物ではなく、殻は体の一器官ともいえるもので、殻から出たカタツムリがナメクジとして生きていくようなことはなく、殻が大きく破損した場合には死んでしまうこともある。これは他の巻き貝も同じである。

一般にカタツムリと呼ばれる有肺類では頭部に触角が2対あり、大きい触角の先端には眼があるが、ヤマタニシなどの前鰓類の陸貝では触角は1対で先がとがっており、眼はその根元にある。触覚のある頭部下面には口があり、口内の上には顎板(がくばん:jaw)が、底部にはおろし金状の歯舌(しぜつ:radula)があり、後者で餌を磨り取って食べる。ガラス面を這うカタツムリの口を観察すると赤味を帯びた小さいものが見え隠れすることがあるが、これが顎板で、さらによく見ると顎板の動きと呼応して透明の歯舌の運動も見られる。

雌雄同体の有肺類の触角の後方側面(右巻き種では右側)には生殖孔と呼ばれる生殖器の開口部があるが、普段は閉じていて目立たない。内部からは雌雄両性の生殖器がそれぞれ開口していて、生殖行動時には内部から陰茎が反転翻出し相互に生殖孔に挿入して交尾が行われる。生殖器の構造は分類上きわめて重要な部分と考えられており、新種記載の際にはその構造を図示記載するのが通例である。同定する際にも解剖してその構造を調べなければならない場合も多く、古い時代に殻の特徴のみで分類されたものが、後に生殖器の構造からまったくの別科であったと判明したものもある。なおリンゴマイマイ科やオナジマイマイ科など一部の群では生殖器に恋矢(れんし)と呼ばれる石灰質の槍状構造を持ち、交尾の際にはそれを相手に刺して刺激することが知られている。またオナジマイマイ科やニッポンマイマイ科では、生殖期に大触角の間の「額」の位置が盛り上がって瘤(こぶ)状になっているのが見られることがある。これは頭瘤(とうりゅう)と呼ばれるもので、性フェロモンを分泌すると考えられている。

生態

生息環境

多くの種は乾燥に弱いためある程度の湿度があるところに多く生息するが、乾いたところを好む種類もあり、中には砂漠の環境に適応した種さえある。ミジンマイマイやウスカワマイマイのように海岸や畑地、道路や人家周辺などの開けた場所を好む種や、深山にしか生息しない種などがあり、種ごとに地理的分布や生息環境が決まっていることが多い。中には岩の表面に住むもの、朽ち木にいるもの、あるいは樹上性のものなど、限られた条件にのみ生息するものもある。

また、貝殻の材料となるカルシウムはカタツムリにとって補給の難しい資源であり、個体数の制限要因となり得る。したがって、それを豊富に供給してくれる石灰岩地はカタツムリにとって好適な環境である。そのため種類も個体数も多いことで知られる。たとえば沖縄の隆起珊瑚礁の森林では、温暖な気候も相まってカタツムリの個体数が多く、貝殻を踏まずに一歩も歩けないほどである。また石灰岩地で種分化して固有種となっているものも多い。このようなことから、ある場所で採取された一群のカタツムリを見ることで、その地理的位置やおおよその環境を推定することも可能である。

生殖
交尾しようとしているリンゴマイマイ(ブランデンブルク州・6月)
交尾しようとしているリンゴマイマイ(ブランデンブルク州・6月)

ヤマタニシなどの前鰓類では雌雄異体であるが、有肺類では同一個体が卵子と精子を持つ雌雄同体である。したがって自家受精するものもあるが、一般には他の個体と相互に交尾することで受精し産卵する。交尾の際、精子は精莢(せいきょう)と呼ばれる入れ物ごと受け渡されるのが普通である。一般には生殖器を直接挿入しない動物が精子の入れ物として精莢を形成するが、カタツムリは直接交尾をするにもかかわらず精莢を作るため、その機能は精子運搬のためだけではなく、精子の栄養体ではないかと考えられている。精莢は雄部生殖器の一部を鋳型として形成されるため分類群によって違った形をしているが、概ね半透明で細長いのが一般的で、受け取った側の雌部生殖器内で分解される。卵は炭酸カルシウムの殻で覆われた球形のものが多いが、寒天質のものや、ノミガイ科やキセルガイ科の一部のように卵胎生で稚貝を直接生むものなどもある。産卵場所は地面の浅いところや朽木の下、木の根元の隙間などで、卵は頭部後方側面の生殖孔から一つずつ産み落とされ、一箇所にまとめられているのが普通である。多くは1週間から1ヶ月程度で孵化し、ミニチュアのカタツムリとして這い出てくる。

食べもの
ヒダリマキマイマイとその食痕。1個のしずく型が一舐めの痕。横一列に数回舐めると "一歩" 前進し、手前の列が終わった地点から再び横一列に舐め始めるため、食痕はS字状の連続となる。
ヒダリマキマイマイとその食痕。1個のしずく型が一舐めの痕。横一列に数回舐めると "一歩" 前進し、手前の列が終わった地点から再び横一列に舐め始めるため、食痕はS字状の連続となる。

ほとんどの種は植物性のものを食べ、生の植物や枯葉などの植物遺骸などを食べるほか、菌類を餌とするものもある。また建物壁面やガードレールなどの人工物の表面に発生した藻類も餌となり、その食痕は日常的に見ることができる。農作物や園芸植物を食べるウスカワマイマイやチャコウラナメクジは害虫として駆除の対象ともなる。紙状のものであれば新聞紙やチラシなども食べてしまう(その場合フンも色鮮やかになったりする)。

しかし中には他のカタツムリを捕食する肉食性の種もあり、米国南部原産の肉食種オカヒタチオビはアフリカマイマイの駆除のためにハワイや小笠原諸島、その他の太平洋諸島に人為的に移入された。しかしアフリカマイマイの駆除にはあまり役立たず、むしろこれらの島々の固有種を捕食して絶滅に一役買うこととなってしまった。このほか近年日本の一部に定着した地中海原産のオオクビキレガイも農作物のほか陸貝を捕食すると言われており、ニュージーランドのヌリツヤマイマイはミミズを捕食する大型種として知られる。

雨が降った後、ブロック塀やコンクリート壁にカタツムリが沢山現れる所を見る事があるが、これはコンクリートに含まれる塩分を摂食する為に集まっている現象である。

寿命

カタツムリの寿命は種によって大きく異なるはずだが、それほど詳しいことはわかってはいない。大型のマイマイ類では数年、小型の殻の薄い種類では1 年程度かそれ以下と考えられており、ウスカワマイマイは普通1年で後者に属する。キセルガイ科のものは長寿傾向にあり、野外で成貝として採取したナミコギセルを15年間飼育した例も知られている。この例では、飼育環境を不注意に乾燥させてしまったのが死因であるため、実際には更に長生きした可能性もあるという。

天敵

カタツムリを主食とする動物(天敵)として、ホタル類やオサムシ類のマイマイカブリが挙げられる。カタツムリを餌として襲う動物としては、樹上性のカタツムリでは、カラスやモズなどの鳥類に狙われる。地上性のカタツムリでは、ヤマネズミ類、イタチ、アナグマ、ツチブタ、タヌキ、イノシシ、トカゲ類、カエル類、等の動物に捕食される。温暖な地方では、コウガイビルや線虫類等も天敵となる。

人とのかかわり

食品・民間薬

フランス料理として有名なエスカルゴはリンゴマイマイ科(Helicidae)のカタツムリの一種であり、主にヨーロッパとヨーロッパ系人種が多いアメリカで食用にされ、養殖も盛んに行われている。またフランス領のニューカレドニアなどでは、現地に産するトウガタマイマイ科のPlacostylus属のものが大量に消費されてきた。缶詰などのエスカルゴにはアフリカマイマイなどを使ったものも多く、中国や台湾などでは白珠といわれる軟体部の白いアフリカマイマイの品種が多く養殖されている。アフリカマイマイ科とリンゴマイマイ科では足の溝の特徴が異なるため、缶詰の肉でも判別可能である。一般にはアフリカマイマイの肉の方がやや硬いとも言われるが、調理法や個人の嗜好にもよるため優劣を論ずることはできない。

日本でもカタツムリを食べる文化は古くからあり、子供がおやつに焼いて食べたほか、喉や喘息の薬になると信じられ、殻を割って生食することも昭和時代まで一部で行われていた(カタツムリは寄生虫の宿主である事が多く、衛生的に養殖された物を除き生食する行為は危険である)。また殻ごと黒焼きにしたものも民間薬として使用され、2005年時点でも黒焼き専門店などで焼いたままのものや粉末にしたものなどが販売されている。普通のカタツムリではないが、福島県郡山地方などでは、キセルガイ類を「カンニャボ」と呼び肝臓の薬としてエキスや粉末などを販売している。この原料となる貝を「ツメキセル貝」としている場合もあるが、標準和名としてのツメギセルは同地方には分布せず、実際に使用されているのはナミコギセルやヒカリギセルのようである。

薬とはやや異なるが、八重山諸島に古くあった焼物であるパナリ焼きは、土にカタツムリを混ぜて作られたと言われる。良質の粘土がなかったため、土をつなぐ役割を果たしたらしい。

信仰

カタツムリを信仰対象とするものは、前述の民間療法と関連したと見られるものが多く、東京都府中市の大國魂神社では、境内にある大イチョウの根元に生息するキセルガイを煎じて飲めば母乳の出がよくなるという信仰があったという。イチョウは大木になると気根が垂れるため母乳信仰が生じたとも言われるが、そこにキセルガイが生息していたことで貝と母乳が関連付けられたのかも知れない。

埼玉県秩父地方には子供の耳ダレに験があるとされる「だいろ神」というカタツムリ神があり、祠にはカタツムリの殻を奉納したと言われる(「だいろ」とはカタツムリのことで、地方によってはナメクジを指すこともある)。珍しい信仰で、カタツムリの粘液からの発想である可能性が高いが、詳しい由来は不明である。

直接民間療法とは関係しない例としては、九州地方やその周辺部のキセルガイ信仰がある。これは神社の大木の樹幹などに生息するシーボルトコギセルやギュリキギセルなどを信仰対象としている。これらの貝は乾燥や飢餓に比較的強く、殻内に入ったまま長期間(数ヶ月以上)生存するため、旅や出征に赴く際に神社の樹から採ってお守りとして持ち歩き、無事帰還したときに再び神社の木に戻すなことなどが行われた。同様の信仰のある山口県下関市の一の宮住吉神社では、シーボルトコギセルを象ったお守りも販売されている。さらに熊本県などではキセルガイを「夜泣き貝」といって、子供の夜泣きにも効くとされ、夜泣きする子の枕下に貝を入れ、治ればもとの樹に戻すという信仰があったという。

その他

カタツムリは古くから子供たちに親しまれていて、多くの童歌や囃し文句などがあるほか、多くの呼称がある。これらは柳田國男の『蝸牛考』にも方言周圏論の好例として多く採録され、でんでんむしなどその語源なども考察されている。同氏によれば「でんでん」は「出ろ、出ろ」と子供がカタツムリを指して呼ぶ言葉が訛ったものではないかと推測している。なお童謡の歌詞にある”ツノ出せヤリ出せ頭だせ”の”ヤリ”とは、交尾の際に出る生殖器や恋矢とする説もあるが、真偽のほどは不明である。

種類にもよるが広東住血線虫などの寄生虫を持っている事がままあり、触れた後にしっかり手を洗わなければ感染する恐れがある。感染すると、場合によっては脳に重い障害が残るまでに至る。

かたつむり(唱歌)

作詞作曲不詳、「尋常小学唱歌」(1911年(明治44年)発表)


でんでん虫々 かたつむり、
お前のあたまは どこにある。
角だせ槍(やり)だせ あたまだせ。


でんでん虫々 かたつむり、
お前のめだまは どこにある。
角だせ槍だせ めだま出せ。
寄生虫に乗っ取られたカタツムリ。寄生虫は最終的に鳥にパラサイトしたいが為に、まずカタツムリにパラサイトして、鳥に見つかりやすいように目の部分を目立たせる。カタツムリが鳥に食べられることで寄生虫は鳥にパラサイトする。

 
 

分類と系統

総称としてのナメクジにはナメクジ科、コウラナメクジ科、オオコウラナメクジ科など数科のものが含まれる。これらは必ずしも同じ系統のものではなく、別系統のカタツムリからそれぞれ殻を失う方向へ進化したものである。

アシヒダナメクジなど特殊なものもを除けば、一般にナメクジと呼ばれるものは分類学的にはカタツムリと同じ有肺亜綱の柄眼目に属し、カタツムリの一種とも言える。カタツムリの貝殻が徐々に退化して小さくなり体内に入って見えなくなればナメクジの形になるが、実際にはその途中の形態をもつ種類もある。ヒラコウラベッコウガイは薄く平たい殻をもち、休止時には殻の大部分が見えてカタツムリのようだが、活発に活動している時には殻の大部分が周囲の肉(外套膜)に覆われ、ナメクジのようになる。またコウラナメクジ科のように薄い楕円形の殻が体内に埋もれているものや、ナメクジ科のように完全に殻が失われているものまで様々な段階がある。

このようなの貝殻の消失は色々な系統で起こっており、これを”ナメクジ化”(limacization)とも言う。海に棲む前鰓類のチチカケガイ科や後鰓類のウミウシ類もそれぞれ独自にナメクジ型に進化した巻貝と言える。ナメクジ化が起こる理由はかならずしも明らかではないが、殻を背負っているよりも運動が自由で、狭い空間なども利用できるメリットがある。地中でミミズ類を捕食するカサカムリナメクジ科では、その特異な捕食環境に適応した結果ナメクジ化したと見なすこともできる。

人家周辺でよく見られるものはナメクジ(ナメクジ科)やチャコウラナメクジ(コウラナメクジ科)などである。後者はおよそ1970年代以降に見られるようになったヨーロッパ原産(恐らくはイベリア半島)とされる外来種で、人家周辺のほか、農地、空き地など人為的影響の強い場所に生息し、作物や園芸植物に害を与えるため駆除の対象とされる。それ以前にはやはり外来種でコウラナメクジ科のキイロナメクジ(キイロコウラナメクジ)が人家周辺には多く、コウラナメクジといえばこちらの種を指すのが普通だった。住宅地などでチャコウラナメクジよりも巨大な姿で活動しているのを普通に見かけたものだが、それよりも小型のチャコウラナメクジの勢力の伸張と共に衰退し、今では見かけることは少なくなっている。

山野にはヤマナメクジという大型種がおり、体長は10cm以上にもなる。体は分厚く、触角は短い。沖縄の山地には別種ヤンバルヤマナメクジもいる。ヒラコウラベッコウガイは沖縄地方に見られる外来種で、退化しかけた薄く小さいな殻があり、カタツムリとナメクジの中間的な形態を示す。やはり沖縄および熱帯地方に広く分布し、しばしば害虫とされるものにアシヒダナメクジがある。これは形はあまりナメクジらしくなく、平べったい楕円形で、表面は細かいつぶつぶになってあまり粘液を出さない。裏返すと、体の下面に、体の幅より狭い脚がはっきりと区別でき、その前の端に口や触角がある。これは、ナメクジ類ではなく、イソアワモチに近縁のものである。

その他

* 駆除法には市販のナメクジ駆除剤(毒エサ、薬剤を散布するもの等)を利用する。またビールの飲み残しを小さな容器に入れて置いておくと誘引されるので捕殺する。ビールで溺死することも多い。
* ナメクジがビールに寄ってくるのはビール酵母と麦芽の香りによるものと言われている。
* ビール大国ドイツではこの習性を利用してナメクジを駆除することにビールを使うこともあるという。
* 銅イオンを忌避する性質があり銅線・銅版によって防除することができる。
* ナメクジの体表に塩を盛ると水分が抜けて溶けるように見える。これは水分を吸いだせる物なら何でもよく、砂糖や胡椒でも構わない。死ぬ前であれば水をかけてやると復活する。
* ナメクジの有力な天敵はコウガイビル類という動物であるが、環形動物のヒルの仲間ではなく、扁形動物で陸生のプラナリアの仲間である。
* ハエの仲間では、貝類捕食者として有名なヤチバエ科の中に幼虫がナメクジを専門に捕食するものが知られているほか、クロバエ科のイトウコクロバエの幼虫もカタツムリだけでなくナメクジに捕食寄生することがある。クロバエ科やニクバエ科の捕食寄生性の種には宿主が不明なものが多いので、他にもナメクジ寄生性の種が見つかる可能性がある。
* 種類によっては生きたまま丸呑みにすると心臓病や喉などに効くとする民間療法があるが、今日では海外から進入した広東住血線虫などの寄生虫感染の危険があるので避けるべきである。
* 「三竦み」の伝承では、蛇に勝ち、蛙に負けるという役回りが振られている。

ナメクジをモチーフとした作品

* 江戸末期の草双紙合巻 (くさぞうしごうかん) 『児雷也豪傑譚』(じらいやごうけつものがたり)には、蝦蟇の妖術使い児雷也の妻として蛞蝓の妖術使いの美女・綱手が登場する。彼らは宿敵の大蛇丸(おろちまる)と妖術戦を展開するが、無論これはガマ・ナメクジ・ヘビの「三竦み」をモチーフにした設定である。
* 『NARUTO -ナルト-』では上記の豪傑譚をモチーフとしたキャラクターが登場する。
* 火星怪獣ナメゴン(『ウルトラQ』、ナメクジ型怪獣)
* ナメック星人(『ドラゴンボール』、ナメクジ型異星人)
* 手塚治虫の『火の鳥・未来編』では、人類滅亡後に長い長い時間を経てナメクジが知能を発達させてナメクジ文明を築き、人類と同じように大量破壊兵器による最終戦争で滅亡する(NHKアニメ版ではカットされた)。
* なめくじ族(TVアニメ『ケロケロちゃいむ』、擬人化されたナメクジで、超スローテンポで話す。身分が高いナメクジほど話すのが遅い)

ナメクジに関することわざ

* ナメクジに塩
ナメクジのエッチ。見ちゃイヤン。